語彙無知の壁(1)
今の英語学習環境は、私たち団塊の世代が英語の教育を受けたころとはまったく異なります。
独学するにしても、今は、有効な教材、方法、利用できる機器、辞書その他あらゆる面で別の世界のように違います。それも学習が進めば進むほど高度な資料へのアクセスが容易になりインターネットを含めた素材は質量共に急速に充実し、対費用効果の面でも格段に改善されつつあります。
そのことを念頭においた上で、英語習得について再度考えてみたいと思います。
① 文法・構文に関しては教材が完備しています。昔は、普通の人が生硬な学校文法の範囲を超えて学習することはほぼ不可能でしたが、今は、構文や語法ごとに生ずる細かいニュアンスの差異にまで言及した文献が豊富に存在します。
② リスニングやスピーキングに関してもあらゆる学習素材や方法が出尽くしています。あふれています。
③ リーディングについても、SSS多読法を代表とする初歩からの学習法が確立しています。また、どんな洋書でも今はすぐに入手できます。
したがって、英語自体の学習環境に関する限り、留学するしないはあまり問題にならなくなりました。
ところが、語彙習得の面に関する限り実態は昔とまったく変わっていない感じがします。基本的な考え方まで同じだと思われます。
そのことが、リスニング・スピーキング・リーディングに巨大な蓋(ふた)をかぶせている気がします。
日々株式トレードをしている人はよくご存知ですが、銘柄によっては価格の上下の一定水準に莫大な量の売り板や買い板が出現して、値動きがその上下の範囲内に収まってしまうことがあります。値動きが一定範囲なので、トレーダーの立場からすれば、比較的安心して売買を繰り返せる銘柄です。
しかし、トレードとは異なり英語の語彙の場合は困った状況が発生します。相場ではありませんから下のレヴェルは関係ないのですが上が頭打ちになることは大問題です。
語彙数が、2000語(英検2級)、6000語(準1級)、8000~1万語(1級)など各段階で大きな蓋が存在しますが特に巨大なのは英検1級1万語の蓋で、それをこじ開けることができないとしたら大問題です。
なぜか?
発音やリスニングを支障のないレヴェルまで引き上げることは今の時代そんなに困難ではなく、先にも述べたように、そのための学習素材や方法はふんだんにあります。
だから、音声で問題のないレヴェルに達した人の難題は、「語彙無知の壁」なのです。
ほとんどの人がこの巨大な壁(蓋)を意識さえしておらず、マスコミも同様に無知無意識のままです。意識している人でも何かとりっぱな理由をつけて正面から対処することを避け、現状に満足しようとする傾向があります。
応用言語学でも語彙強化の方法論はまだ研究途上です。
したがって、上記の巨大な蓋を打ち破る具体的な学習素材・方法も1級以上は皆無です。そのあたりのレヴェルで英語力が伸び悩む原因です。
そこで、まず必要なのは、知らないことをしゃべったり聞き取ったり書いたり読んだりすることはできないという自覚です。
リーディングでは、知らない語彙があっても意味を類推できると言う人があいかわらず後を絶ちませんが明らかな限界があります。
SSS多読法は、その類推を、限界をはっきり認識した上で、うまく活用した優れた方法でしょう。この多読法は5000語前後までのボキャビルにも役立ちます。
「語彙無知の壁」に関連して、同時通訳者の枝廣淳子さんは『AREA English 20004/ December』で次のように語っています(太字引用者)。ちなみに、忘れない内に復習を繰り返すシステムは「アンチ・バベルの塔」とまったく同じです。なお、引用文中の「北極星」とは、枝廣さんが「大それた目標」を表すために使っている言葉です。
(引用開始)2年後に同時通訳になる!29歳で本格的に英語の勉強を始めたとき、そう決めました...
同時通訳のスキルは「聞き取れて話せる」ですが、私は聞き取りでつまづいていた。じゃあ、どうすれば聞こえるのか? テレビや雑誌、新聞から単語を拾い出し、徹底してボキャブラリーを鍛えました。知っている単語は、ネイティヴの速度でも耳に入ってきたからです。ならば、単語の数をもっと増やせば、会話の内容が分かり、それらの単語を使って自分も話せるようになる。同時通訳なんて突拍子もなくても、「そうなるには何ができればいいか」を基準に、ゴールから逆にかみ砕いたら、「単語を覚える」という現実的な道筋が見えた。北極星が俄然近づいてきました。
単語は、1日に覚える数十個を打ち込むと、2日後、3日後、5日後、1週間後と、再びパソコン場面に出てくるプログラムを夫に組んでもらいました。忘れかけた頃に復習を繰り返すと、記憶が脳に定着して、忘れにくくなるんです。ずいぶん手の込んだことをして、と言われますけど、むしろ逆。完全に忘れたものを一からやり直すのはイヤだから、忘れる前に復習する。本に書いた「朝2時起き」の生活にしたのも、11年前、子供二人を夜8時に寝かしつけながら、自分も一緒に寝てしまえば、2時起きでも睡眠は6時間。朝まで誰にも邪魔されずに、火事や勉強に集中できた...
もし最初に「勉強は一歩一歩、前進あるのみ」と考えていたら、2年で達成は無理だったでしょう。学校英語をおさらいして、外国人の友だちを作って日常会話...。手順が多すぎて、おさらいで挫折(笑い)...(引用終止)
一日に覚える数が数十個というのも非常に意義深い指摘です。一日に5つ程度ではなかなか効果があらわれません。語彙が5000語ほど蓄積される英語の雑誌などを読んでいても確かな手ごたえを感じるようになりますが、一日に5つでは、ロスを無視しても、5000語を達成するのに1000日もかかってしまいます。1000日=約3年となると生半可な根気では挫折してしまうでしょう。もっとも、挫折しなければまったく問題ありません。
さて、「語彙無知の壁」には2つの側面がありますが、これは次回に述べます。




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