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市橋敬三氏の辞書に対する怨念(おんねん)!

笠島氏は、先に「語彙数4~5万語の辞書」で言及したように、「アンカー英和辞典」をフルに活用してジョージタウン大学の博士課程を卒業したと語っています。

他方、市橋敬三氏は、最近の著書『アメリカ英語ビジネス会話辞典』で痛烈な辞書批判を展開しています。

以下に引用します。省略・太字はk.y.。

(引用開始)...筆者は高校生のとき単語は一語の単語で覚えても意味はなく、辞典の中に出ている例文の中で覚えるべきだと英語の先生に強く勧められた。以来辞典を引くといつも必ず各単語の例文を算数の九九と同様、すらすら口について出てくるまで各文を何度も朗読した。辞書の執筆陣は一流大学の高名な教授たちだったので全幅の信頼を置いていた。誤りがあるとは微塵も考えなかった。ところが、後にアメリカ留学し、レポートを提出したところ全く使われていない Japanese English や、ある小説家の独特な表現の例文をたくさん覚えこんでいることを教授たちに指摘された。筆者はこのとき味わった挫折感、失望は長年経った今でも、つい先日のようにはっきりと覚えている。まさに地面にたたきつけられた、言葉では言い尽くせない苦い、苦い、苦い経験であった。
 問題なのは筆者が初めて留学してから何十年も経っていながら辞典が旧態依然の状態であることである...(引用終止)

大津氏が、私が『ショッキングな「まえがき」』で言及したように、英語不可知論者の典型だとすれば、市橋氏は日本の「英語辞典不信論者」の典型と言えるでしょう。

「言葉では言い尽くせない苦い、苦い、苦い経験であった」という表現には、文字通りの怨念が感じられます。

私は、実は、十数年前から市橋氏の熱心なファンです。新たな著書が出るたびに購入して勉強させてもらっています。

市橋氏の著書は、英語の各表現の微妙なニュアンスや普通の辞書だけでは把握できない用法などの指摘が多くあって、他の辞書の内容を補足するうえでたいへん貴重なものです。いつも、感謝しています。

また、「各単語の例文を算数の九九と同様、すらすら口について出てくるまで各文を何度も朗読」という方法は市橋氏の一貫した主張であり私も全く異論はありません。氏の各著書はその方法を活かせるような編集になっています。

しかし、市橋氏の「猛烈な辞書批判」にそのまま同意するわけではありません。ここ数年の辞書の進歩は、常に述べていますように、すばらしいものです。

市橋氏が何十年も前に利用された辞書とは ― 旧態依然だと言われますが ― さまがわりです。あまり改良されていない辞書も確かにありますが、氏が各著書で指摘されているような欠点はどんどん修正されてきていて、十分信頼できるレヴェルに達している辞書もあります。

進化を遂げた辞書は、今や、最高に信頼できる参考書です。

だからこそ、「辞書暗記論」を展開しているわけです。

ただし、できれば最初から「英和」と「英英」を併用したり、できるだけ早い時期に「英英主体」に転換することは大事だと思います。氏の指摘される「例文」は「英英」のほうがはるかにおもしろいですし、「英英」を読むこと自体が英語を読むことでもあり、学習上より有利な条件が整うことは今まで述べてきた通りです。

+市橋氏のすばらしい著書 ― なかでも『アメリカ英語表現辞典』 ― を座右におくことは実に心強いことです。市橋氏は実用アメリカ英語の権威です。

ひとつ、市橋氏の猛烈な批判から逆にわかるのは、氏がいかに熱心に「辞書を暗記」して勉強したかという点です。激しい怨念の裏には激しい愛着があったわけです。

氏の英語のバックボーンになったのもおそらく辞書ではないでしょうか?

だから、今度は ― 怨念を昇華(しょうか)して ― 自分で「独自の辞書」を書いておられるのだと思います。

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