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記憶(6)

「オックスフォード大学の授業」で次のように書きました。

『また、「~まで暗記する必要はない」などと言う有力な主張もあるが、人間の頭はそんな単純にはできていないでしょう。脳は、これを覚えてこれは覚えないという合理的な選択などしていません。それなりのネイティヴなら少なくとも5万語以上の語彙力を持っていてしかもそれは取捨選択して覚えたものではありません。私たちは5~6万語の日本語の語彙力がありますがまったく取捨選択の結果ではない。生涯に2度と出会わないような単語でも知っている。「そんなものは必要ないから覚えなくてもいい」というのは浅はかな後知恵であって脳はいつのまにか覚えているのです。なぜか? 必要だからでしょう。円周率は無限の数字です。何万桁も必要ではないなどと言っても無限であることは事実でしょう。なぜか? 自然が必要とするからでしょう。自然のルールなのでしょう。人間の脳も自然の一部です。必要なものは吸収せざるを得ない。なぜ、必要なのかはまだわかりません。ただ、言えることは「あれは必要でこれは不必要だ」という限定は人の脳の発達を妨げてしまう』

これを書きながら思い出していたのは、チェスの世界チャンピオンがコンピュータと試合をして勝てなくなっていることです。

人間の記憶とコンピュータの記憶の違いを考えていたのです。

円周率は無限の数字のはずです。コンピュータによる計算がどこまで進んでいるのでしょうか?何百万桁ぐらいでしょうか? いや、もっとかな? とにかくとんでもない桁数になるはずです。これに対して生身の人間が覚えた円周率の最高桁数は友寄英哲さんが達成した4万桁 ―これも驚くべき桁数ですが― だったと思います。いずれの数字も確かではありませんが、人間の記憶力が無限でないことは確かでしょう。コンピュータにかなうわけがありません。

「チェスの世界チャンピオンがコンピュータと試合をして勝てなくなっている」というのはどういうことでしょうか? ひとりの人間(チャンピオン)の脳が蓄積したあらゆるチェスの作戦をコンピュータがすべて記憶してしまったからではないでしょうか? 

人間の語彙の記憶力も、コンピュータに比較して著しく劣っています。個人の脳が記憶できる語彙数はおそらく最大限30万語ぐらい、普通は5~10万語のはずです。

記憶力が劣っていると言うより、人間の記憶とコンピュータの記憶は異質なんでしょう。

そこで、違いをまとめて見ます:

① コンピュータの計算・記憶能力には理論上限界がない。したがって、余談ですが、ひょっとしたら無限だと思われていた数字に実は限界があることがコンピュータによって発見され、その分野の数学に変革がもたらされる可能性がある。

②人間の脳の記憶能力には限界がある。

③ しかし、人間の脳には創造力があるがコンピュータにはない。たとえば、チェスのチャンピオンが画期的な新手を創造すればそのデータをコンピュータにインプットしないかぎりコンピュータは勝てなくなる。

アーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリックは、1968年の映画 『2001年宇宙の旅』 で、スーパーコンピュータHALを創造しました。このHALにはかなりの創造性があったはずですが、21世紀に突入した今もHAL型のコンピュータは実際はもちろん理論段階でも存在しないでしょう。

Steven Pinkerも1997年に出版された 『How the Mind Works』 の第1章「Standard Equipment」 の冒頭で次のように書き出しています(太字k.y.)。

 Why are there so many robots in fiction, but none in real life? I would pay a lot for a robot that could put away the dishes or run simple errands. But I will not have the opportunity in this century, and probably not in the next one either. There are, of course, robots that weld or spray-paint on assembly lines and that roll through laboratory hallways; my question is about the machines that walk. talk, see, and think, often better than their human masters.

人間の記憶と創造の能力、不思議ですね。人は人を創造できないでしょう、多分。

その創造の秘密のひとつは人間の記憶の有限性にあるのかもしれない。記憶が有限であるからこそ新たなものを生み出すことができる。

コンピュータは ― 無限の記憶能力がネックになって ― たとえば文学を生み出すことはできない!

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