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養老孟司さんの「整理整頓」(3)

老孟司さんが雑誌 『諸君』 の1994年3月号に「整理整頓」というエッセイを寄稿している。

おもしろいエッセイなのでいくつかに分けて収録しておくことにした。今回は3回目。

(引用開始) 文庫と新書のいけないところは、ほかの本と同じ棚に並べようがないことである。それをやると、小さいくせに、一人前の場所をとる。棚の上のほうが空いてしまって、どうしてももったいないという印象がある。それならと思って、徹底的に詰めると、今度は重なり合って、始末の悪いことになる。移動式書架に文庫本を積み重ねて書架を動かすと、文庫本が降ってくる。軽いから怪我はないが、また載せるのが面倒臭い。
 困るのは、雑誌である。読んだら、捨てる。そういう原則を置くが、読まないこともある。そうすると、捨てられない。まったく不要かというと、あるとき突然必要になったりする。先ごろも、深沢七郎の小説が入用になって、それが雑誌にあったことは覚えているのだが、いつの、どのあたりかが不明になってしまった。そうすると、端から雑誌を見ていかなくてはならない。ところが、ところどころに欠号がある。同じ雑誌でも、自分の書いた文章が入っているものは、別にしてあるからである。そちらに紛れ込んでいたリすると、またそっちを見なくてはならない。
 必要な記事を破いて、それをファイルする。そういうこともやってみたが、これはもっと整理がつかなくなる。整理している暇があったら、その資料が必要な原稿を、資料なしで書いてしまったほうが早い。整理が悪いから、破いた記事がどこにあったか、それがわからなくなる。それに雑誌を破くと、必要な記事のページの頭のページが、前にある別な記事の最後の頁になってしまうことが多い。それを保存しておくと、いちいち一頁繰らないと、何の記事だかわからない。不要な頁に題でも書いておけばいいのだが、そんな手数がかけられるくらいマメなら、そもそも記事を破いておくなどという、怠慢なことはしないであろう。

(k.y.の感想)

養老先生の筆が実に冴えている。文庫と新書と雑誌の生態とその整理の話、年季が入った整理の苦心や日ごろの本や雑誌との付き合いがリアルにうかがえてまたまた同感のいたりである。書庫に棲むプロフェッサーの所作まで伝わってくる。描写がうまい。

何かの絵画の説明のようだなと思っているうちに、何とミシェル・フーコー著・渡辺一民・佐々木明訳の『言葉と物―人文科学の考古学―』の「第一章 侍女たち」の第1節を思い出してしまった。画家ベラスケスの最高傑作 『侍女たち』 を描写した文章である。

養老先生の緻密で均整の取れた筆の動きに誘われて、私の頭は、「本の整理」→「空間の処理」→「絵画と空間」 → 「ある光景とその中にはめ込まれた本人(養老先生)の図」 → 「アトリエと画家本人の図」 → 「ベラスケスの代表作」という経路をたどって「哲学者・フーコー」まで飛んでしまったのだ。

さて、フーコーは、至高の名作といわれる 『ラス・メニーナス(侍女たち)』の描写を次のように始めている(この絵には、王女と女官たちと製作中の画家の姿が描かれている)。

( 『言葉と物』からの引用開始 )

 画家は絵から心もちさがったところにいる。モデルに一瞥をあたえているところだ。あるいは、仕上げの筆を加えようとしているのかもしれない。だがもしかすると、最初のひと筆がまだおろされていないのかもしれない。画筆を持つ腕は、パレットの方向、左にまげられている。いま彼は、画家と絵具とのあいだで身動きもしない。その馴れた手は視線に吊られ、視線は逆に、静止した動作に支えられている。画筆の鋭い先とはがねのような視線とのあいだでは、光景がその立体的空間を解き放とうとしている

(同・引用終止)

さて、とりとめのない雑談ついでにもうひとつ。

絵画と文章は絵画の場合は「物」ごとを絵具で描き、文章の場合は「物」ごとを語彙で描くわけですが ― 「脳ともの」という観点からすれば、同じ脳作用の2形体だと考えることが可能です。

21世紀初頭の今、脳神経科学は新たな飛躍の局面にあるようです。21世紀の脳科学は20世紀の哲学の解釈に画期をもたらすかもしれず、たいへん楽しみです。

今回は、えらく脱線してしまいました!

(続く...)

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