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奇才の幼少時代(4)三島由紀夫 ― 1 ―

今回から三島由紀夫の幼少時代です。

三島由紀夫は1925年に生まれた。だから、昭和元年(1926年)は、彼が満1歳のときであり、昭和の年号は彼の満年齢と一致する。亡くなったのは昭和45年(45歳)であった。今も存命であれば80歳ですね。

三島は、『仮面の告白』で、自分の生まれた前後の状況をほぼ正確に描写しています(太字k.y.):

「震災の翌々年に私は生まれた。
 その十年前、祖父が植民地の長官時代に起こった疑獄事件で、部下の罪を引受けて職を退いてから(私は美辞麗句を弄しているのではない。祖父がもっていたような、人間に対する愚かな信頼の完璧さは、私の半生でも他に比べられるものを見なかった。)私の家は殆ど鼻歌まじりと言いたいほどの気楽な速度で、傾斜の上を辷りだした。莫大な借財、差押、家屋敷の売却、それから窮迫が加わるにつれ暗い衝動のようにますますもえさかる病的な虚栄
こうして私が生れたのは、土地柄のあまりよくない町の一角にある古い借家だった。こけおどかしの鉄の門や前庭や場末の礼拝堂ほどにひろい洋間などのある・坂の上から見ると二階建であり坂の下から見ると三階建の・燻んだ暗い感じのする・何か錯雑した容子の居丈高な家だった。暗い部屋がたくさんあり、女中が六人いた。祖父、祖母、父、母、と都合十人がこの古い箪笥のようにきしむ家に起き伏ししていた。
 祖父の事業欲と祖母の病気と浪費癖とが一家の悩みの種だった。いかがわしい取巻き連のもってくる絵図面に誘われて、祖父は黄金夢を夢見ながら遠い地方をしばしば旅した。古い家柄の出の祖母は、祖父を憎み蔑んでいた。彼女は狷介不屈な、或る狂おしい詩的な魂だった。痼疾の脳神経痛が、遠まわしに、着実に、彼女の神経を蝕んでいた。同時に無益な明晰さをそれが彼女の理智に増した。死にいたるまでつづいたこの狂燥の発作が、祖父の壮年時代の罪の形見であることを誰が知っていたか?
 父はこの家で、かよわい美しい花嫁、私の母を迎えた。」

(引用中断)

私が太字にした部分は、母の描写を除いて、何か三島文学そのものをほうふつとさせます。また、形容詞の多彩なこともズバリ三島スタイルだと思います。

ここでも少し英語の勉強をすることにして、その太字の部分を下記の Meredith Weatherby の英訳で再読してみましょう。。ちなみに、翻訳は、原文のさまざまな解釈の可能性をかなり限定する結果、原文よりわかりやすくなることが多いです。

暗い衝動のようにますますもえさかる病的な虚栄 → a morbid vanity blazing higher and higher like some evil impulse

こうして私が生れたのは、土地柄のあまりよくない町の一角にある古い借家だった。こけおどかしの鉄の門や前庭や場末の礼拝堂ほどにひろい洋間などのある・坂の上から見ると二階建であり坂の下から見ると三階建の・燻んだ暗い感じのする・何か錯雑した容子の居丈高な家 → As a result I was born in not too good a section of Tokyo, in an old rented house. It was a pretentious house on a corner, with a rather jumbled appearance and a dingy, charred feeling. It had an imposing iron gate, an entry garden, and a Western-style reception room as large as the interior of a suburban church. There were two stories on the upper slope and three on the lower...

彼女は狷介不屈な、或る狂おしい詩的な魂 → a narrow-minded, indomitable, and rather wildly poetic spirit

父はこの家で、かよわい美しい花嫁、私の母を迎えた → Into this house my father had brought my mother, a frail and beautiful bride.

続く...

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