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語学の「天才と凡才」その1

ちょうど10年ぶりに書架から取り出して再読し始めた本があります。『ファインマンさんの愉快な人生 I (ジェームズ・グリック著大貫昌子訳)』という本です。

その18ページに、数学者のマーク・カッツが希代(きたい)の天才物理学者・リチャード・ファインマンを描写した次のような一節があります(太字k.y.)。

天才にはごく当たり前の天才と、魔術師的な天才の二種類があるごく当たり前の天才というのは、もしわれわれがいまの何倍か利口でさえあれば、誰でもがなれるような天才のことだ。そういった天才なら、その頭脳の働きに何の神秘もありはしない。彼らが何をやったかを理解さえしてしまえば、われわれにだってきっとできたはずだと確信できる。ところが魔術師の場合はまったくちがう。彼らは、数学の言葉で言うなら、われわれの直交補空間にいるのだ。だからその頭脳の働きなんぞ、事実上理解できっこない。たとえ彼らが何をやったのかを理解できたところで、その過程となるとまったくの謎だ。それと張り合ったり、まねたりすることは決してできないため、この種の天才が弟子をもつことはまずないと言ってよい。それだけにそのような魔術師の頭脳の神秘的な働きに対抗していこうとする若い秀才たちは、さぞかしもどかしい思いをすることだろう。リチャ-ド・ファインマンは、魔術師の中でも最高級の魔術師なのである」

さて、語学の天才も存在します。

しかし、語学の天才は魔術師ではないでしょう。「もしわれわれがいまの何倍か利口でさえあれば、誰でもがなれるような天才」だと思います。

なぜか?

それは、語学の天才の場合は、彼らが何をやったか理解できるしその過程もよくわかるからです。その頭脳の働きに何の神秘もないからです。

渡辺照宏さんは、その著『外国語の学び方』の「むすびのことば」で ― 「コメントにお答えする(33/2005)」でも引用しましたが ― 次の3つのことを特に言いたいことだとしています。

 第一. 外国語の勉強は自国語を学ぶのと異なったものではない。環境・時間・年齢の相違は意識的な努力で克服することができる

 第二. 自国語でも外国語でも機械的な人まねや暗記が必要であって、技術は技術として文句なしに覚えこむこと。 初歩の段階はもちろん、いくら達者になってもこの心がけをわすれないこと

 第三. しかし言葉というものは自国語でも外国語でもその人柄を示すものであるから、自分の言語生活を大切に育て上げなければならない。

渡辺氏は、また、「語学の天才といわれる人たちが実は身をけずるような烈しい訓練をしていることを実際にみてきました」とも書いています。

つまり、語学の天才でも語学の凡才でも「まずやらなくてはならないこと」は同じです。「機械的な人まねや暗記」です。そこには何の神秘もありません。

そして、私が思うに、「暗記の必要性」はいくら強調してもし過ぎることはない。ましてや、それを軽蔑したり軽視したりすることはとんでもない愚行だと思います。

「暗記だけでは役に立たない= 暗記は不要」では断じてありません。暗記は外国語習得の大前提です。

人はややもするとその大前提をすっ飛ばして「実際に使う」ことばかり考えてしまいますが、暗記していなければ「読めない・しゃべれない・聞けない・書けない」わけですから、暗記が大前提になることは当然なのです。

会議通訳者の 新橋隆子さんは『眠った英語を呼び覚ます(新橋隆子・高橋百合子著)』で―Speaking 能力の習得は「英語を覚えること」に尽きる。理屈を並べず、ひたすら暗記するという謙虚な姿勢が必要だ。しかし、暗記するだけでは使えるようにならない。新しく覚えた単語や表現は、自分の言いたいことを伝える手段として使えたときに自分のものになる― と書いています。

まず暗記し、次にあるいは同時に使う」ということであって、暗記からスタートです。

だから、語学の天才=暗記の天才といってもいいでしょう。

そして、その天才は、魔術師ではなく、「もしわれわれがいまの何倍か利口でさえあれば、誰でもがなれるような天才」です。

それでも、「いまの何倍か利口でさえあれば」というのはとてつもなく厳しい条件です。いや、凡人には明らかに不可能なことです。

他方、利口でない分をある程度あるいはかなりの程度補うことは必ずしも不可能ではない。「根気と時間」があれば可能です。

そして、根気は何とかなる何ともならないのは「時間」です。膨大な時間をいかに捻出するか? これこそが最後の壁といえるでしょう。

時間がなければ、言い訳ではなくほんとうに時間がなければ、望むことのできるレヴェルは低位にとどまってしまいます。

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Comments

上記の会議通訳者ですが、新橋隆子さんではなく、新崎隆子さんではないでしょうか。間違っていたらごめんなさい。
一度新崎さんの講演を聴いたことがあり、その凛としたお人柄に憧れている者です。

Posted by: izumi | October 05, 2005 at 03:58 PM

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