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リービ・英雄(3)

読書の最高位に達したリービ英雄は、自ら「パラダイス」と称する理想的な読書環境のなかに生息していた。そんな贅沢な環境がふさわしい生き物も存在するのだ。

「ぼくの日本語遍歴」の続きを読み進めます↓

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 小さな窓からさしこむ明るすぎる常夏の光と、それに照らされて、もっとも純粋なテキストとして光る縦文字群。朝は 『日本書紀』、昼は大江健三郎。そして「アジア語文化」の隣の教室の、同じようにカリフォルニアの強い日差しが縞模様となって落ちるテーブルの上では、朝は 『詩経』、昼は 『阿Q正伝』 が開かれて、他人種の読み手たちによってそれぞれ分析のメスが入れられていた。

 アメリカの大きな大学がたいがいそうであるように、スタンフォードも「アメリカ合衆国」から浮遊した学問の独立王国の様相を持っていた。広大な大陸の自然の中で、単なる象牙の塔というだけではなく、それが所属する国家の存在を忘却させるほど、読み手のパラダイスのような環境だった。

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同じような環境の描写が 木村美苗著 『私小説』 にあります↓

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 なにしろこの環境は私には恵まれ過ぎていた。くる日くる日も夜遅くまで開いている図書館ひとつとっても分不相応なものだった。その外観はゴチック風の大伽藍である。だが真に贅沢なのはその中身であった。資料室には何年かかっても眼を通せない量の新聞や雑誌が世界各国から集められ、読書室には深々とした革椅子があちこちに配置され、手当たり次第に本を取り出しページを繰っても、それはそのまま机の上に放っておけばいつのまにか片づけられていた。そのうえ書庫に入れば古書市場で一もうけできそうな百年二百年前の本が革表紙に金箔の字を見せて無造作に並んでいた。巷の貧困をしりめにくりひろげられる、古代ローマ人の午餐(ごさん)のように贅をつくした書物の饗宴に、私はついに慣れることがなかったのである。

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リービ・英雄は、これほどのパラダイスで「純粋なテキストとして光る縦文字群」に淫しながら一定の年月を過ごしていた。

そして、意識してか否かは定かではないが、蓄積する「異国言語」の語彙群が盛んに化学変化を起こして醸造のプロセスを経つつあった。しかし、まだ、「日本語で創作する」機は充分に熟していなかった。パラダイスは、まだ、最高位に達した読み手をその繭(まゆ)のなかにやさしく包んでいた。

続く...

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