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トラファルガル海戦(英語が仏語を制す)

英語が仏語を制して世界語になる契機となった海戦

以下はAsahi.com(http://book.asahi.com/review/TKY200601110197.html)よりの転記です。

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トラファルガル海戦物語(上・下) [著]ロイ・アドキンズ

[掲載]2006年01月08日

[評者]野村進

 もしこの戦いがなければ、世界の“共通語”は英語ではなく、フランス語だったかもしれない。著者は巻末で、そう推察している。なんて突飛(とっぴ)な、と思われるだろうが、上下二巻の大著を読み終え、私には深く首肯できるところがある。

 たとえて言えば、元寇(げんこう)当時の日本人の危機感を幾層倍にもふくれあがらせたものを、十九世紀初頭のイギリス人たちは肌身で感じていたのだった。あの無敵のナポレオンが海峡を越えて、イギリスに攻め込んでくる。それをすんでのところで食い止めたのが、スペインのトラファルガー岬近海で、ネルソン提督ひきいるイギリス艦隊が、フランス・スペイン連合艦隊を撃破した、一八〇五年の“トラファルガー海戦”なのである。

 本書は、その全貌(ぜんぼう)を記した決定版と言ってよい。私が強く惹(ひ)かれたのは、だが、帆船同士の戦いを微に入り細を穿(うが)って書き込んだ分厚い描写よりも、往時の戦場でのモラルのあり方であった。私はまったく知らなかったのだが、ほとんどの戦艦に女性が大勢乗り込んでいる。一部は火薬運搬員で、そんな女性の一人が海に投げ出され、全裸同然で救助されたときには、敵艦の男たちが最大限の紳士的なふるまいを見せ、また男の捕虜に対しても、イギリスの艦長が「とてもおいしいお茶」(最高級の紅茶であろう)でもてなしたりする。現代の戦争に比べ、はるかにモラリスティックなのである。

 著者の本業は考古学者との由。さもありなん、化石の一片一片を掘り起こし吟味する手つきで、ネルソン提督本人から新入りの水兵までの手記を渉猟し、それらを巧みにちりばめて、二百年も前の戦いを今に甦(よみがえ)らせている。麻酔のない時代、艦内での緊急手術で腕を切断される負傷兵の激痛や、戦闘後の「血糊、脳みそ、肉片だらけ」の甲板の血なまぐささが、学者の隙(すき)のない文体で再現される。

 五千人が死んだこの海戦で制海権を得たイギリスは、“七つの海”の覇者となってゆく。英語はたしかに広まったが、アジアやオセアニア、アフリカの多くの人々にとっては、新たな災厄の時代の幕開けにほかならなかったと私は思う。

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私は、「英語はたしかに広まったが、アジアやオセアニア、アフリカの多くの人々にとっては、新たな災厄の時代の幕開けにほかならなかったと私は思う」というようなコメントを聞くと、「それでは仏語が世界語となっていたら何の災厄も起きなかったのか?」と問いたくなります。

強大な民族の言語が世界を制するのは、好悪の有無は別にして、真に自然な現象でしょう。

弱小民族の言語は、かろうじて生き残るか、絶滅するか、あるいは保護の対象となるか、いずれにしても有力な言語にはなり得ない。

言語も、人間の所産である以上、優勝劣敗の軌跡をたどることは自然の掟と言える。

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