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「才能」(28)

物理学者・小柴昌俊さんが、先日(2006年1月18日)の日経夕刊の「心の玉手箱」で、モーツァルトについて書いておられる。

ひとつの才能論として、また、卓越した芸術家が卓越した科学者を惹きつけた記録として興味深く感じたので、全文を転写しておきます(タイトル以外の太字 k.y.)↓。

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感性は科学の論理を超えて

 モーツァルトの音楽を大切に思ってきた。クラシック音楽と出会ったのは中学生のころだが、それ以来、人生のどんなときでも音楽は私の心を豊かなもので満たしてくれた。特にモーツアルトはそうだ。

 モーツアルトとアインシュタインとどちらが天才かという議論をしたことがある。無論どちらも本物の天才なのだが、「天才とはほかのだれにもまねができない人物だ」と定義すると、モーツァルトに軍配が上がると思う。

 仮にアインシュタインが百一年前に相対性理論を思いつかなかったとしても、ほかの人が論理をたどっていって同じ真理にたどり着くことはいずれ可能だったに違いない。それが科学というものだ。科学では主体(科学者)と客体(研究対象)が分かれていて、論理的な思考を積み重ねればだれでも同じところにたどりつく

 ところが、モーツアルトがつくったあのすばらしい曲は、彼以外のほかのだれにもつくれないではないか。主客は一体に融合しており、論理を超えた感性の産物といえる。それが芸術というものだと思う

 ノーベル賞受賞後にあちらこちらの討論会でこんな議論をふっかけたら、みんな目を丸くしていた。

 さてモーツアルトだが、私は音の大きなオペラとかシンフォニーとかはあまり聞かない。ピアノやバイオリンのソナタとか室内楽が好きだ。 

 六百曲を超えるモーツアルトの作品の中で、一つをあげるとすればホ短調のバイオリンソナタ(K304)だ。悲しみに満ちた曲想なのに、なぜか私を幸福感で満たしてくれる。やはりモーツアルトにしか書けない音楽だ。

 色々な演奏があるが、いちばん体に染み込むと思っているのは、ピアニストの遠山慶子さんの演奏だ。コンサートやCDで聞いてすっかりファンになった。その遠山さんが親友のバイオリニスト、塩川悠子さんと組んで自宅で私のために演奏会をしてくれることがある。文化勲章をもらったときなどお祝い事のあるときだが、昔のヨーロッパの貴族になったような幸せな心持にさせてくれる。

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モーツアルトは、当時のヨーロッパ貴族の注文に応じてせっせと作曲したはずですが、その作品が現代の精神貴族・小柴さんに好まれ、そのノーベル賞受賞にいささかでも貢献したとすれば、小柴さんの理論はどこかでモーツアルトの色調を帯びているのかもしれない。

ほかのだれにもまねができない天才」が普遍的な科学に与える影響。何か不思議なロマンが潜んでいるような気がする。

数学者の天才が美しい景色や建造物や詩に共鳴する」という話しもある。

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