現実的な語彙強化(14)
「辞書暗記」に対して、そんな方法でやっても「楽しくないし根気が続かない」からだめだという意見はいたるところにあります。当然、「アンチ・バベルの塔」に対しても同じ批判が多くあります。
そこで、ちょっとこんなふうに考えてみましょう。
世間で「楽しくて長続きする」と言われている教材の設定語彙数を確認してみたらせいぜい数千語です。1000語から3000語ぐらいのすっきりした(=単純すぎる)語彙集を「楽しく長続きするやり方で!」マスターしようというわけです。
しかし、そんな数のしかも極度に単純化された語彙など、その気になって集中してやれば数日~10日もあれば全部覚えられますよ。会社へ行ってる人の場合でも、今の時代、数日から10日間ほどの休暇は珍しくない。朝から晩まで暗記に没頭すればそんな単語集などまたたくまに覚えられる。
楽しいだの長続きするなどと言っている暇もないうちに終わってしまいますよ。
たとえ、覚えたって忘れる!? そんな単純な語彙群なら、1日10分ほど復習するだけで忘れません。
もう大丈夫だと思ったら、いわゆる多読(ネイティヴの感覚で言えばれっきとした遅読)を実行すればいいです。そしたら復習などしなくても永久に忘れません。
だから、そんな「楽しくて長続きする」やり方は、実は、「根気」など要求していない。根気が必要になるのは1万語以上特に2万語以上でしかも多義語ならその意味のすべてをカバーしチャンク表現もちゃんと含む語彙強化の場合です。
「語源で覚える英単語」も同じです。市販の人気の語源単語集程度なら、休暇に一気に覚えるほうがよっぽど早い。ついでに、ご託宣の語源の知識も身についてしまいます。まわりくどい説明などちょっと極端に言えば「無駄!」。
語源が威力を発揮するのは、「学習用辞典」には登場しない医学用語などです。例えば、 aniseikonia (アナイサイコウニア)《両眼の》不等像(視)(症). 分析すると、aniso- = not equal + icon = image + -ia 。ちなみに、-ia は「病気の状態」「動植物の属名」「地域, 社会」を示す語尾です。
普通に必要な語源の知識なら「学習辞典」を読むだけで充分習得できます。そして、ある程度語彙強化にも有効です。他方、10個前後の語源で1万語ほどの語彙強化が可能になるというような話は、「私」が思うに、ナンセンスというか、UFOの存在を信じるに近い所為でしょう。
語源に興味があるなら、ラテン語やギリシャ語の基礎知識を蓄えるほうが、あるいはイタリア語などをやるほうが、よほど訳に立つでしょう。ただし、これに関しては、私の想像にすぎません。
いずれにしても、根気がなければ、一定以上の語彙強化は不可能です。やさしいものをたくさん読める以上の語彙強化は不可能です。10日で達成できるものもちゃんとした価値があります。しかし、それは、10日で入手できる価値です。その価値判断は、もちろん、相対的なもので、各人によってさまざまですが、数年間かけないと入手できない価値に比較すれば非常に小さいことは否定できません。
楽しさ? 私は、根気が不要なもので心から楽しめる知的な営み(=持続する楽しみ)を知りません。
もっと言えば、根気を意識しないで没頭できれば最高ですね。
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