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『大聖堂』の原文(英文)と翻訳と語彙 (1)

だれでもそうだと思いますが、おもしろい小説を夢中で読んでいるときは、物語自体に没頭していちいち作中の語彙や表現に拘泥することはありません。

そして、そんな拘泥なしに読書を楽しめる背景には、充分な語彙力があります。

「アンチ・バベルの塔」で一応の完成をみた語彙力は、もはやあまり意識することはありませんが、英語で読書を満喫するためのなくてはならない武器になっています。「塔後の悦び」であります!

私は、先日、Ken Follet のほぼ1000ページの大作 『The Pillars Of The Earth』 を読み終えました。あまりに面白くて1週間ぐらいで読んでしまいました。12世紀のイングランドの大聖堂建築をめぐる物語です。

名作を読んだ余韻まださめやらず、今日は本屋に出向いてその翻訳 『大聖堂(3分冊)』 まで買ってしまいました。日本語の「語彙選択・訳文」の上手(うま)さに脱帽したからです。

翻訳者は矢野浩三郎氏。私は寡聞にしてこの優れた翻訳者(故人)を存じ上げませんでした。翻訳とはかくもすばらしいものかということを知らしめてくれる稀有な方の1人だと思います。

たとえば、次のような具合です。物語の冒頭、公開の絞首刑を見に出てきた近在のいたずら坊主たちを描写した一節です。

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原文: The boys despised everything their elders valued. They scorned beauty and mocked goodness. They would hoot with laughter at the sight of a cripple, and if they saw a wounded animal they would stone it to death. They boasted of injuries and wore their scars with pride, and they reserved their special admiration for mutilation: a boy with a finger missing could be their king. They loved violence; they would run miles to see bloodshed; and they never missed a hanging.

翻訳文: 小童(こわっぱ)たちはおとなの尊ぶものを軽蔑する。美しいものを小莫迦(こばか)にし、善なるものをあざ嗤(わら)う。弱者と見れば嘲笑し、傷ついた動物には石を投げつけ、殺す。怪我をじまんし、傷痕をこれみよがしに誇る。肉体を傷つけることをことのほか賛仰しているから、指を一本でも失った子供はガキ大将になれる。暴力沙汰(ざた)が好きで、血なまぐさいものを見るためなら、どんな遠くまででも駆けつける。まして、絞首刑を見逃すはずはない。

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翻訳文も独立した味わいがあります。見事です。

さて、英語の勉強もしておきましょう。上記の文章は「軽蔑する」という意味を持つ語彙を覚える格好の場を提供してくれています。

原文・翻訳文ともに、同じ語彙を繰り返さないという原則を、さりげなくしかし巧みに守っています。

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・ despise
scorn
mock
hoot with laughter

hoot の動詞の場合の意味・用例を 『Longman Dictionary of Contemporary English』 から転記しておきます(今回は3の意味ですね)↓。

1 [intransitive and transitive] if a vehicle or ship hoots, it makes a loud clear noise as a warning
hoot at

The car behind was hooting at me.

2 [intransitive] if an owl hoots, it makes a long 'oo' sound

3 [intransitive and transitive] to laugh loudly because you think something is funny or stupid

hoot with laughter/glee/mirth etc

He had the audience hooting with laughter.

ちなみに、この hoot の語源について、 『Oxford Advanced Learner's Dictionary』 には、「中世英語 (軽蔑の声を出す意) おそらく擬声語」という趣旨の記述があります。

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その他の部分も実に参考になる筆はこびです。

私はこの一節を全部暗記しました


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