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リスニング・コンプリヘンションの本質

前回の記事に、英語の上達法: それは、『非才 マシュー・サイド著・山形浩生・盛岡桜訳』¥1900 に全部書いてあると書きましたが、英語(外国語)のリスニング・コンプリヘンションに関しても、非常に示唆に富む言及があります。

たとえば、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の柏野牧夫氏の実験(http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0295680/top.html) によると ― まとまった意味を持つ発言の一部をホワイトノイズに置き換えても、脳がその空白を埋めて完全な発言として聞こえる。そして、録音した文章を50ミリ秒ずつの断片に刻んで、さかさまに再生しても完全に理解できる ― そうです。

「長年の経験から得られた言葉の知識が、知覚情報を理解できるかたちに修復させてくれるのだ (『非才』) より引用 」ということです。

人のしゃべっていることは、多少聞こえなかったり、かなり聞こえにくかったり、雑音が混ざったりしても、支障なく理解できる。 これは、私たちが日本語で頻繁に経験していることです。

柏野牧夫氏によれば 「耳のよさ」と言われるもののかなりの部分は,イリュージョンを生成する能力に依拠している.イリュージョンは,知覚を生み出すための脳の巧妙な戦略の表れとでも言うべきものである」 ということになる。

そんなことは多種多様な 「リスニング教材」 のどこにも書いていない。 音声は発言された音が全部そのままに聞こえるはずだという前提になっている。

― 母国語 ( マシュー・サイドの母国語=英語のこと → k.y.注 ) の会話に耳を傾けると、一語 ごとに ( ひとつの単語ごとにではなく、意味のチャンクごとに ということだろう → k.y.注 ) ごくわずかな無音部分で区切られているように聞こえる。だがその無音部分は、じっさいは存在しない。母国語の文法構造の知識が聴覚情報を修整させ、構造がととのった状態で聞こえるようにしているのだ・・・ここで重要なのは、知識はたんに知覚を理解するためには使われていないということだ。知識は知覚に組み込まれている。偉大なイギリス人哲学者ピーター・ストローソン卿は語っている。「知覚には概念が浸透しているのだ」 ― ( 『非才』)より引用 )

つまり、ことばの音声理解は、脳に組み込まれた構文その他に関する知識のコントロールなしにはありえないということになります。

そんな脳を作り上げるためには、膨大な音声経験が必要で、市販の音声教材を多少やった程度ではとうてい満足な聴解レヴェルには達しないでしょう。

ここでも、音声訓練の質・量が、決定的な役割を持つことは明らかです。

「目で見たら分かる文章」でもネイティヴ・スピーカーから聞いたら分からないとしたら、それは、音声を瞬時に適切処理するべく脳に蓄積・内蔵された知識の不足が原因で、音声理解(=聴覚による理解)の経験が充分でないからだということになります。

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Comments

いつも楽しみに読ませていただいております。

今回の記事は私にとってとても価値のあるものになりました。

私は関西人です。例えば友達が「なにゆうてんねん、おまえ~」と言うのに、実際は「てんねんおまえ」しか音がなっていないとしても理解できます。(実際にそういうことのほうが多い)


ですがおそらく関西以外のかたには認識できないでしょう。


なのでディクテーションって構文が解ってないと無理だなあと思っていました。実際には音がなってないですものね。


話者も聴者も音がなっていると思ってますよね。


ありがとうございます。「非才」買ってみます。


アンチバベルの塔はA6のノートに書いています。今10冊になりました。


これからもご活躍楽しみにしています。
では。

Posted by: 田地 悠平 | August 28, 2010 at 09:41 AM

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